ごえんびと
第19回
チャイルドラインこおりやま 理事長
大岡 桂子さん
連載コーナー「ごえんびと」
壽徳寺にご縁のあるひと(ごえんびと)にインタビューし、想いを伺いながらご縁を深めます。
第19回は、チャイルドラインこおりやま理事長 大岡桂子さんです。
みなさんは「チャイルドライン」ってご存知でしょうか?
子どもの声を聴き、こころを受けとめる活動として、全国38都道府県に68の電話実施団体と25のオンラインチャット実施団体が、電話もしくはオンラインチャットで子どもの気持ちを受けとめる場所を開いています。
福島県内にも福島と郡山に団体があり、子どもの声を受け止める場を開き、受けとめた「声」を社会に発信し、子どもが生きやすい社会を目指すために活動されています。数年前、チャイルドラインこおりやま主催の講座に住職が参加させていただいたことをきっかけに大岡さんとのご縁がひろがりました。
日頃保育士としておつとめされながら活動を続けていらっしゃる大岡さん。ご活動への想い、原動力についてお伺いいたしました。
「チャイルドライン」って初めて聞いた、という方もぜひご覧ください。
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*チャイルドラインとは
チャイルドラインは、18歳までの子どもの相談先です。
かかえている思いを誰かに話すことで、少しでも楽になるよう、気持ちをうけとめます。
あなたの思いをたいせつにしながら、どうしたらいいかを一緒に考えていきます。お説教や命令、
意見の押しつけはしません。
またチャイルドラインは、世界中の国々が話し合ってつくった「子どもの権利条約」の理念を
大切にしています。
私たちは、子どもたちの人権が守られ、子どもも大人と同じように一人の人間として
人格や意見を尊重される、そして誰もが人間らしく生きていける社会をつくりたいと思っています。
チャイルドラインホームページ(子どものサイト)より抜粋
https://childline.or.jp/
ご活動について
―――大岡さんは保育士として長年お勤めされてるのですね。
そうですね。最初は東京の公立保育園で仕事していました。結婚で福島に戻り、10年間は専業主婦として過ごし、子育てが落ち着いた後に復職しました。現在はチャイルドラインなどの活動もありますので、保育園勤務は週3日にしていただいています。
―――他に不登校で悩んでいるご家族のサポート活動もされているのですね
『ほんとの空くらぶ』(ふくしま登校拒否・不登校を考える会)で、不登校の子どもを持つ保護者の悩みや経験を話し合う親の会の世話人をしています。私自身、息子が不登校だったときに、この親の会に出会い、ちょっと先ゆく親の方に大変助けられました。
現在は前任者から引き継いで代表を務めていますが、この会の発足は1989年ですから、もう30年以上の会になりますね。現在は親というより祖母の年齢になりましたので、メンバーが集まると敬老会みたいですが(笑)、今、不登校で悩んでいる親の方から、メールや電話で相談を受け、現在でも月に一度の例会を開催しております。
最近ですと、インターネットで「不登校」で検索するといろんな情報を調べることもできますし、今の若い世代のお父さんお母さんと年齢差のある世話人なのですが、現在の不登校の子どもを持つ親の方が悩んでらっしゃることは、私が息子の不登校で悩んでいた当時と何にも変わらないんです。親の会にはたくさんの親の方の経験が蓄積されています。それを伝えてゆくことが大切かなと思っています。子どもの数は減っているのに不登校は年々増え続けています。親の会でまず親が元気になり、家が安心できる居場所になることで、子どもが元気になれるようにと願っています。
*「ほんとうの空くらぶ」~ふくしま登校拒否を考える会~ ホームページ
https://www.hontonosora.com/
―――その活動の延長上にチャイルドライン設立があったのでしょうか?
親の会で一緒だった方や、県内で子ども支援に取り組んでいた方々と繋がることで、チャイルドラインこおりやまは立ち上がりました。2010年から設立準備会として動き出していましたが、準備している最中に震災が起きました。全国のチャイルドラインから支援があり、チャイルドライン支援センターを通してフリーダイヤルの電話番号が入っているチャイルドラインカードを全県下の子どもたちに配布しました。被災当時はあちこちの道路が寸断されて、教育委員会も仮設で、特に沿岸部の被災地は場所が分かりにくい状況でしたが、当時のチャイルドライン支援センターの代表理事が、準備会メンバーの運転する車で、沿岸部の各教育委員会をまわり、カード配布の協力をお願いしました。チャイルドラインこおりやまはその震災の年の5月5日に試験開設し、翌年の2012年に本開設しました。
―――震災の混乱の中で5月に試験開設したというのはすごいですね。
立ち上げ準備会のメンバーは、それぞれの所属団体があり、避難所となっていたビッグパレットふくしまで支援活動に力を注いでいました。チャイルドライン準備会としても、被災した状況やその後の環境を目の当たりにし、また、福島の子どもたちからの電話が急増していたこともあり、地元にチャイルドラインが必要だと強く感じていました。
―――2012年に本開設ということは、ちょうど設立10年なんですね?
そうなんです。よちよち歩きから始まりましたが、10年経ってようやくいろんな方との繋がりが広がり、チャイルドライン活動を理解していただける方々が増えてきたかなと感じています。
チャイルドラインについて
―――チャイルドラインにはどのような内容の電話があるのでしょうか
チャイルドラインはいわゆる「相談ダイヤル」ではありません。もちろん悩みや相談を受けることもありますが、大人から助言や解決策を一方的に示すことはチャイルドラインが目指すあり方とは異なります。あくまでも、子どもを真ん中に置き、子どもを主体者としてとらえ、子どもの価値観や利益を最優先する対話を行うことを理念としています。子どもが一人の人間として尊重されるコミュニケーションを保障すること、それがチャイルドラインの目的です。
また、チャイルドラインの活動は市民のボランティアによって支えられています。養成講座の受講と現場での経験を経て、一定の知識と手法を身につけた人が「受け手」として子どもたちの声を受けとめます。また、「受け手」で経験を積んだ人の中から、「受け手」の方々を支える「支え手」を担う人がでてきて、ようやく活動として成り立っています。
―――現在9月です。夏休み空けの9月は電話の本数として多いのでしょうか?
夏休み中はいつもより落ち着いています。子どもたちの気持ちがほっとする時期でもあると思います。夏休みが終わる頃になると、子ども達からの電話が増えますね。8月後半から9月は特に電話の数が多くなります。
9月は1年の中で子どもの自死が多い時期です。受け手の方も、「今日は重い電話が来るだろうと思って覚悟をして来ました。」と言いながら電話の前に座っていました。悩みの深い電話を受けるのはしんどいこともあります。そういう電話を受け止める気概で活動に参加し、受け手を続けてくださる方々の存在がチャイルドラインを支えています。子どもたちには、気軽に電話できるチャイルドラインの存在を知ってもらい、これからもこの活動を続けていくことが大切と感じています。
―――電話だけでなく、オンラインチャットの準備もされているとか
「チャットで相談できる日時をもっと増やしてほしい」という子どもたちの声に応ええるために、チャイルドラインこおりやまでもオンラインチャット相談の開設に向けて準備を進めています。スマートフォンの普及によって変化した子どもたちのコミュニケーション環境に適応しながら、子どもたちの声を受けとめられるようにと思っています。
チャイルドラインに電話をかけてくる子どもたちは、親や先生、友達などの身近な人には話せない悩みや自分の気持ちを語ってくれています。話すことで自分の気持を整理し、乗り越える力を蓄えます。電話の向こうの子どもの声が変わっていくのを聞いていると、子どもたちは自分で考える力をもっているなと強く感じますね。電話だけでなく、チャットでも子どもの心の声を受け止められるようにしてゆきたいと思っています。
それぞれの活動の相乗効果
―――子ども時代にどんな経験をしたか、どんな大人と出会ったのかは大事なことですよね
そうですね。どんな経験をし、どんな大人に出会ったかは大事ですね。現代の子どもたちは、のびのびとした若者に育つために大切な時間や環境が削がれてしまっているように感じていて、それは大人の責任だと思うんです。これは私が保育士を今でも続けている理由でもあります。若い保育士の方たちに伝えたい思いもあります。
―――どんなことを伝えたいですか?
現在規制緩和によって、保育園も様々な環境で開設されています。子どものための保育園ではなくて、大人の都合が優先されがちです。もっと子育て世代に優しい社会になり、親も子もゆっくり過ごせる働き方ができるといいですね。それは保育士にも言えることで、仲間と話し合ったり、自分の保育を振り返ったりする時間があることで、子どもへの余裕のある関わりが生まれるのではないでしょうか。
乳幼児期は人の一生の中でわずかな時間です。その時間を家庭でも社会でも大事にしてほしい。小学校へ入学後の集団適応や身辺自立に重きを置き、目に見える部分を育て急ぐのではなく、ひとりひとりの興味や関心に寄り添い、子どもが自分を育てている時間を大切にしてあげたいなと、遊んでいる子どもたちを見ていると思いますね。
厳し過ぎる集団規律の中で、こんな環境は嫌だという感覚を持っている子ども、悲鳴を上げている子どもたちがいて、そういう子どもたちの声がチャイルドラインには集まってきます。
―――保育の現場ではどんなことを大切にされていますか?
保育は、養護と教育が一体となることが大事です。例えば、食事の時に一人で食べる力がある子どもが、「せんせい、あーんして~」って言ったときに、「自分で食べてみようね」と言うことは教育的関わりかもしれないけど、その子どもの状況を見て、子どもの心に寄り添い「はい、あ~ん」と食べさせる養護的な関わりも必要です。小さい年齢ほど養護の部分をしっかり入れることが大切ですけど、大きくなってからでも、いわゆる教育だけでは、子どもは育たないと思うんですよ。
子どもは幼い時から自分の思いを持っていて、言葉のない時代からそれを表現しています。子どものまなざし、息づかい、泣き声、体の動きから伝わるものがありますよね。その年齢なりの表現を汲み取られ、受け止められながら育ち、話ができるようになったら耳を傾けてもらえる。その体験の積み重ねが大事ではないでしょうか。そう思って子どもに向き合っていると、子どもに自分が育てられている気がする。それで保育士を続けてきたのかなと思います。
―――保育士、親の会、チャイルドラインとそれぞれのご活動が相乗効果のように、新たな出会いや気づきなどにも繋がっていますか?
そうですね。自分だけだったら絶対できないことを仲間がいたからできたんですね。保育もそうだしチャイルドラインもそうです、親の会でも、最初はご自分が泣きながら参加していた方が、いつの間にか支える人になっています。支える人、支えられる人で分けられない、自分が支えていると思っていても支えられている部分もある。それぞれの活動の中で出会った方から、たくさんの力を頂きました。私の中では、保育の仕事と、親の会の活動、チャイルドラインの活動、みんな繋がっているのです。
―――大岡さんの活動の源をお聞かせください
それはやはり3人の息子たちの不登校体験です。
学校が大好きだった長男が小学校6年で不登校になりました。転校して2年以上経っていましたが、今思えば、彼にとっては我慢の限界を超えていたのに、親の狭い価値観の中で無理に登校させようとしてつらい思いをさせました。親は子どもを学校へ戻さなければ子どもの未来はないと思い込んでいたのですね。でも、子どもたちは不登校後のたっぷりと自由な時間に本を読んだり、映画を見たり、好きな音楽を聞いたりして自分の世界を深め、青春18きっぷで旅をして、たくさんの出会い経て成長していきました。
親もそんな子どもたちの姿から、学ぶこと、成長することの意味をとらえなおす機会を得ました。早くから社会に出て 三者三様にいろいろな経験をしましたが、親以外の多様な大人との出会いから感じ、学んだことは大きかったと思います。自分が学ぶ必要を感じてから、働きながら高校や専門学校へ行ったり、独学で音楽を学んだり、それぞれ自分で決めて行動しました。もちろん、不安や孤独もあったと思います。凡庸な親だった私が、それを見守ることができたのは、不登校の親の会を通して出会った方々のおかげです。
「子どもができたら親はいろんな方とつながりなさい」と言った方がいましたが、まさにその通りですね。子どもは多くの人の手を借りて育つもの。子どもの不登校を家庭だけで抱えて悩んでいる方がいたら、一歩踏み出して人とつながることで、親も子も違う景色が見えることをお伝えしたいなと思います。子どもたちの成長を見ていて、学ぶ力や生きる力は子どもの中にあることを確信しました。その確信が活動の源です。
――ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。
講座に参加するまで、私もチャイルドラインの存在を知りませんでした。そして知れば知るほどその存在が大切であり、子どもの居場所の一つとして大事にしてゆかなければならないと感じています。子どもや子育ての支援にはさまざまあります。壽徳寺も賛同しております、おてらおやつクラブも支援のひとつですし、他にも様々な団体や個人で、また地域で活動されています。具体的に活動に参加しなくとも、問題や実情を知ることや応援する方法も様々です。社会の問題は他にもたくさんあります。どれが素晴らしいか否かではなく、なにか気になったこと、参加したいな、応援したいなと思った時、出会った時には一歩踏み出してみるのも良いのではないかなと思っています。
今回もチャイルドラインを知っていただく機会として、また大岡さんの想いに触れ、読者のみなさまのなにかきっかけになってくだされば嬉しいな、という気持ちと私自身も想いを深めたいことからインタビューさせていただきました。毎回深まる時間です。今回もありがとうございました。
*インタビュー・文 松村妙仁
*2022年9月1日 オンラインにてインタビュー
大岡 桂子 (おおおか けいこ)さん プロフィール
1953年生まれ。保育士として東京都の公立保育園に勤務。在職中に転勤があり、土の園庭の保育園と人工芝の園庭の新設園を経験し、乳幼児期の子どもにはアリンコやダンゴムシのいる園庭は必須と実感した。
その後、郷里で結婚、子育ての後、復職。子どもの不登校で出会った親の会から全国の親の会と繋がり目からウロコの体験をする。
親の会のあいことばは「わからないときは子どもに聞け」。子どもの声を聴くことの大切さを知り、チャイルドラインの活動につながる。
現在も保育園で子どもたちと園庭の虫や植物を探索中。
・ほんとの空くらぶ(ふくしま登校拒否・不登校を考える会)世話人代表
・チャイルドラインこおりやま理事長
・こおりやま子ども若者ネット副代表。
チャイルドラインこおりやま ホームページ
https://cl-koriyama.org/
こおりやま子ども若者ネット ホームページ
https://kowakanet.localinfo.jp/
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