ごえんびと 第17回 山下 仁子さん

ごえんびと

第17
NPO法人 ビーンズふくしま アウトリーチ事業 事業長
山下 仁子さん

山下仁子さん(中央)

活動の様子(一緒にお散歩)

連載コーナー「ごえんびと」
壽徳寺にご縁のあるひと(ごえんびと)にインタビューし、想いを伺いながらご縁を深めます。
第17回は、NPO法人 ビーンズふくしま アウトリーチ事業部 事業長 山下仁子さんです。

ビーンズふくしまさんとのつながりは、壽徳寺も賛同しております「おてらおやつクラブ」です。
壽徳寺からのおすそわけをビーンズふくしまさんにお送りし、ご活動の中でお役立ていただております。
お寺からお送りしたおやつが、どんな活動の中で、どんな子どもたちの手に届いているのか、ご活動を伺いたいと思っておりました。詳しいお話は、8/13(土)に壽徳寺にて講演会を開きますので、こちらにご参加いただければと思います。

今回のインタビューでは、山下さんご自身の活動への想いなどお伺いいたしました。
講演会前の予習としてぜひご覧ください。


【ビーンズふくしま アウトリーチ事業とは】

 福島県内の生活困窮世帯の子どもを対象とした訪問型の支援活動をされています。子どもの権利保障を最大の目的とし、「子どもの生きる力を引き出し育てる」ための取組として、各種講座や体験学習等の多様な学びの機会提供、生活支援、相談、各種同行等を行っています。※助成金等を活用し生活困窮世帯以外の子どもたちの支援もされています。

ビーンズふくしま ホームページより抜粋)


アウトリーチ事業について

―――アウトリーチ事業のスタッフさんは何人いらっしゃるのでしょうか?

 郡山の事業所では5名です。専属が3名、アルバイトが2名です。アルバイトは週に2、3回ぐらい、他にボランティアさんも入ってくださっていますが、メインで動いているのはこの5名ですね。日々ご家庭の訪問に出かけている状況です。

 

―――訪問は週1回くらいですか?

 学習支援だけを求めているご家庭には、月に1回程度ですが、受験生がいるご家庭には毎週通ったりしてます。過酷な状況のご家庭には頻繁に訪問するのですが、対象がかなり増えており、回りきれないっていうのが実状で、多くても1週間に1回ぐらいですかね。毎日来てくださいって言われても行けないような状況です。

おすそ分け受け取った様子

おてらおやつクラブからのおすそわけ

―――コロナによってその数も増えたというのはあるのでしょうか?

 ある一定程度生活の基盤があり、お母さんがひとり親で働いてるけどやっぱり経済的に大変というご家庭は、コロナによって揺らされてしまったりとか、収入が減っちゃうという心配は一定数は出てはくると思います。

 ですが、私達の活動の特徴なのかもしれないんですけれども、震災があったときも、コロナ禍においても、あまり変動がないんですよね。私達が訪問するご家庭って、生活基盤が整備されず、常に生きる力が低下した状態で継続的な貧困の状況が多く、なんらかの社会情勢の影響で収入の変化や気持ちの変化というのがあまり見えてこないんです。世の中が大パニックになってる時でも、その枠にはまらず縛られないっていうか、それどころじゃないというか、明日食べるものもないし、明日生きれるかどうかわからないという状況が続いています。コロナでさえも揺れないような生活状況、揺さぶられる生活基盤さえ整っていない状態ですね。

 

―――そのような状況ですと、訪問支援が唯一の支えでしょうし、コロナで訪問できない事は死活問題でもありますよね

 そうですね。組織として活動している中で、感染防止のために訪問を控えるよう指示が来たりするんですね。スタッフ側としては感染対策のために訪問自粛せざるを得ない期間があると、対象のご家庭としては「なんで?」来てもらわないと困るんだけどっていうようなことはありましたね。
 そんな中でも、コロナ以前より連絡を取る状況を増やしたりとか、ご家庭に入れなくても、玄関先でとにかく顔を見て10分程度であっても、状況確認と声をかけるっていうことだけでも続けていました。オンラインで連絡をすることもできないご家庭が多い中で、スタッフも感染対策を徹底しながら、玄関先の訪問も繰り返すっていうような状況です。感染拡大の防止のために訪問できないことでより不安定化に繋がってしまうこともありますので、この状況下でいかに繋いでいくかというところは結構苦労したなって思います。
 それでもやはり不安定になってしまって、訪問自粛期間中でも手に負えない状況で助けてください、というSOSは出てきますので、いかに社会に繋がりきれない人たちのところに訪問してくか、繋がっていくかということの重要さを再認識した期間でもあったなと思います。

 

活動中の様子(一緒にごろーん)

―――アウトリーチ事業が始まったのはどのぐらいでしょうか?

 11年前ですね。生活困窮者自立支援法が施行になる前、モデル事業として全国に先駆けて子どもの貧困対策に取り組みました。今ですと子どもの貧困は社会問題に位置づけられて、いろんな団体さんが着手してくださってるんですけれども、11年前といえば震災直後でしたし、震災の混乱の中で、初めての取り組みだったので試行錯誤でした。

 当時は貧困を解決するには、まず子どもに学力をつけて、商業系とか工業系の高校に進学し、手に職をつけて就職をして貧困を脱却しましょう、という指針でしたが、実際に現場を見たらそれどころじゃない。私自身も当初結構ショックで、福島県にこんな状況の子どもたちがいたのか、ってびっくりしました。その子の学力云々の問題ではなくて、家庭全体を何とかしていかなきゃいけないし、社会の課題として捉えていかないと意味がない。子どもたちに何かを求めるっていうのはちょっと違うのではないかと訴え続けていました。ですが、なかなか理解してもらえず、「お前たちは何やってんだ」みたいな感じで、私もお叱りを受けながらやってきたところもあります。

 それでも10年以上やり続けてきたことで、家庭全体のサポートが必要で、そこから子どもの生きる力をしっかり養い、自立に向かっていくところを活動の核として、少しずつ理解していただけるようになってきたかなと思います。
 まだまだ難しいなっていうところもあります。周りから見ると、それが必要な支援って捉えるかどうかってやはりまだ難しいところもありますし、私達の発信する力が及んでないっていうところもありますし、なにが子どもたちに必要なのかっていうことは、これからも訴え続けていかなきゃいけないなって思っています。

 

―――活動されて迷いや悩みはありますか?

 なにが正しいかなんて本当に、もう何年やっててもわかんないと思ってます。周りに理解してもらえなかったり、行政の方に指導されたりとかすると、私達スタッフも揺れることも多々ありますし。それでもやっぱり子どもたちの顔を見たときに、自分たちがやってることが正しいか正しくないかではなく、その答えを持ってるのは子どもたちなんだなって思います。

 迷った時には子どもたちのところに行こうって、スタッフみんなで話をしています。苦しくても悩んだら子どもたちのところに行って、子どもたちから教えてもらおうという気持ちを持ち続けてきて、もう11年、12年目になりますね。

一緒に鬼ごっこしている様子

―――スタッフみなさんの心身の健康も心配ですが・・・

 私も年取ったせいなのか、最近現場に行くスタッフを見送るときに涙がでそうになります。
 現場に行く準備をしているスタッフの姿を見ていて、しんどい気持ちで向かうんだろうな、これで何かあったらどうしようって不安だろうなあって想像するんですよね。それがわかっているけど送り出さなきゃいけないっていう時に、涙が出そうになりますし、スタッフがすごい疲れた顔で帰って来たときに、「おかえり」って言ってあげられる、環境っていうのは必要だなあと思っています。
 微力ではあっても、救われたなって思ってもらえるご家庭や子ども達が増えてきたかなと感じた時に、続けてきて良かったと思いますし、子どもたちと接せることで私達が支えてもらって、幸せだなと思いながらやってます。

 

これまでのご経験

―――以前から子ども支援のお仕事はされていたのでしょうか?

 私は元々医療関係の仕事をしていました。いつか子どもに関わる仕事がしたいとずっと思ってたんですけど、私の中で、子どもは特別な存在で、今の私にはまだ無理みたいなのがずっとありました。今自分にその力があるか、子どもに関われば関わるほど自分はそれにふさわしい人間じゃない、というふうに思っていました。
 仕事を辞めてしばらくしてから求人を探していた時、今のこの仕事に巡り合って応募しました。そろそろ子どもに関わることしても大丈夫かなと思って、応募したのですが、今でも戸惑いと格闘し続けています。

一緒にお料理中

――まだ無理かなと思っていたのには何か思いがあったんですか?

 子どもって、嫌だったら嫌、気に入らなかったら泣く、でもごめんなさいってちゃんと言えたり、ご挨拶をちゃんとしましょうってね大人に教えてもらったこともしっかりやりますよね。コミュニケーション能力は大人に比べればまだ範囲は狭いですし、うまく言葉にできるかっていうとそうではないけれど、その中でも自分の意見ははっきりしていて、今を一生懸命、全身を使って、何かを訴えてくれたり、ただただ生きるっていう姿を見せてくれてるなって思うんですね。その姿を見ていると、これが人の完全体なんじゃないかって。これでいいじゃんって私は思うんです。

 それに比べて大人はいろんな経験や学んでいく中で、怖さが出たり、本来持ってたものが失われていくように思うんです。人として必要なことを選択し、活用して生きている中で、生きてゆくのに大事な力が削がれていってしまうような気がしています。そんな削がれ切った私が本当に今、全身で生きてくれてる子どもたちに向き合えるかっていうと、その自信がなかったんです。
 子ども達って言葉の力が足りない分、言葉にならない思いの部分っていうのをたくさん持ってますよね。忖度もない。その子ども達の心の中にあるものを、私が気づくことができるのか、感じ取ることができるのかって考えると、いやまだまだそんなことできる人間じゃない、と何か思うことがたくさんあって、ちゃんと子どもと向き合える人間になりたいと強く思ってました。

 それはまだまだできてませんが、子ども達の姿から勉強させてもらって、人として生きるっていうことの素晴らしさだったり、尊さっていうものを見せてもらえる一番近い現場に入れてる気がしています。

 

――いろんな子ども達と接する中で気持ちの変化はありますか?

 生活環境は複雑だったり過酷だったり、曖昧なことがたくさんありすぎることはありますが、意外にその子自身はシンプルだったりするんですよね。生きたい、死にたいの二択みたいに、ある意味本能に近い部分で生きているなと思います。

 大人達が作ってきた社会の中で、子ども達は選択肢がないって思ってしまうこともあるかなと。でも選択肢を自分で作っていいし、正しい正しくないの判断だけじゃなくて、その子にとってもっと”優しい答え”があっていいんじゃないかなって思うんですよね。
 いろんな選択の幅を持って、自分の人生を生きていけるところにたどり着つけたら、その子のままの純粋さだったり、自分らしく、自分の人生を豊かに、ただ幸せになりたいって願ってくれるような、生き方をしてくれたらいいなって思います。

 私もそこに関わらせてもらってる間に、できる限りの力を持って伝えていきたいなと思っていたりします。でも全然足りないんですけどね・・・。思いはあるけどどうしていいかわからない日々です。笑

活動中の様子(こけし作り)

これからについて

――これから考えていらっしゃることなどお聞かせください

 今私達がやってるこの活動は、ほぼ委託事業の枠の中で実施しています。県や各自治体の予算の枠の中で委託を受けてやっているのですが、委託の事業だと委託内容で決まっているんですよね。もちろんその内容も大切ですし、必要なことはやっていきたいとは思いつつも、本当に支援が必要なところに、支援が届きづらい現状もあって、その代わりに別の助成金をいただいて動いているんですね。けれども、その助成金も毎年採択されるわけではないので、活動が制限されることもあります。

 本当に必要な支援制度が届けられるように、皆さんから支援の輪が広がって、ゆくゆくは自主事業ができるぐらいまで回せるようになりたいですね。遠い話ですが・・・。そのためには、しっかり支援の内容を組み立て、強化して、仕様にとらわれず、本当に必要な支援を必要な子たちに届けるっていうことができるシステムというのを作っていきたいです。

 家に引きこもって誰も見たことがないというようなお子さんとか、地域でも実状を知られず、社会と繋がることができずにいる子たちにもしっかり手が届くような支援の枠、私達の家庭訪問型の支援の基盤を強化して、より深く支援できるようにしたいなと思っています。新たにマンスリーサポーターの登録募集もはじまり、ここ6年ぐらい構想してきたものがかたちになりつつあるので、これからも続けてゆきたいですね。

 

―――ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします

 今回、山下さんのお話にもありましたが、大人になるにつれて、本来もっている純粋さやまっすぐなところなど、子どもと接することによって気づくことも多いですよね。経験を重ねてゆくことは生きる智慧でもありますが、子どもの頃のように今を一生懸命に生きる、という姿勢も大人になっても忘れてはいけないな、と思うインタビューでした。
 山下さんのお名前は、仁子(じんこ)さん。私の昔の戸籍上の名前と同じでもあり、勝手に親近感を感じています(笑)。ビーンズふくしまさんのご活動の講演は、別の勉強会で何度かお伺いしておりますが、山下さんと一度ゆっくりお話しを伺いたいと思い、今回のインタビューとなりました。活動されていいる内容や対象のご家庭の環境は、私が想像する以上に厳しい生活環境であり、福島県内でこのような状況があることに驚きでした。詳しいお話は、8/13(土)14:00~のおてらおやつクラブ巡回展の中でお話いただきますのでぜひご参加いただければと思います。参加方法などはまた改めてお知らせいたします。

*インタビュー・文 松村妙仁
*2022年6月29日 オンラインにてインタビュー


山下 仁子 (やました じんこ)さん よりメッセージ

みなさんこんにちは。
ビーンズふくしまの山下です。
いつも大切なお供え物をおすそ分けいただきありがとうございます。
子どもたちもとても喜んでいます。

私たちが関わる子どもたちの多くは、過酷で劣悪な環境の中で日々、生きていてくれています。
そんな子どもたちの大切な命が、明日に繋がることを願って、今日も明日もあさっても子どもたちのもとへ会いに行きます。

NPO法人ビーンズふくしま- ホームページ
https://beans-fukushima.or.jp/


現在、アウトリーチ事業さんではマンスリーサポーターを募集中です。

皆さまからご支援いただいた寄付金は、子どもたちが豊かな人生を送るための様々な活動に活用されます

マンスリーサポーター(毎月のご寄付)
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