ごえんびと 第11回 森口  純一 さん

ごえんびと

第11
礼拝空間デザイン室『TSUNAGU』代表
森口  純一さん

 

森口さんが手がけられたお墓 茨城県笠間市 常陸国出雲大社様

連載コーナー「ごえんびと」
壽徳寺にご縁のあるひと(ごえんびと)にインタビューし、想いを伺いながらご縁を深めます。

第11回は、礼拝空間デザイン室『TSUNAGU』代表の森口純一さんです。
森口さんは、全国各地の寺院の永代供養墓や納骨堂などの祈りの空間設計、運営アドバイスから、お寺の魅力を引き出すお手伝いなど寺院のトータルデザインに携わっていらっしゃいます。壽徳寺でも永代供養墓建立を視野に入れており、森口さんにご相談しているところです。仏教とのご縁によって公私ともに180度違う人生を送ることになった、森口さんのご経験、これからの活動についてなど、想いを伺いました。ぜひご覧ください。


前職と独立

―――独立されて何年になられますか?前職についてもお聞かせください。

 独立して丸三年になります。前職は川本商店という、お墓のステンレス花立や水桶などのメーカーです。全国のシェア7割、業界トップで創業100年の老舗企業で28年くらい働いていました。入社当時は、商品設計や仕入れ担当など内勤の仕事がメインでした。自分としては内勤より外勤の方が好きで、どうしたら外回りの仕事ができるかと考えている時に、永代供養墓が流行りはじめてきたこともあり、新たな部門をつくることになりました。

 

―――当時担当されていた、永代供養墓はどのようなお墓なのでしょうか?

 20数年前、永代供養墓といえば、古墳のような大きいのばかりで、ウン千万かけて造るものばかりだったんです。それを現場で組み立てられるキットとして設計しました。コンクリート製ですが、現場で一週間あれば組み立てられるものです。チラシとはがきを全国のお寺に郵送し、返信ハガキを待つ状態。訪問希望などの問い合わせが全国から450件くらい届いた時には「これで、出張ができる!」と思い嬉しかったですね(笑)。
 実際にお寺に伺うと次々と注文が決まり、その後もキット以外の石製の永代供養墓も引き受けて、年間20~30基の永代供養墓を受ける状況でした。

 

―――その後、永代供養墓以外でもお寺と繋がっていくのですね?

 永代供養墓を建てるために、各地のお寺に出入りするようになると、お寺の諸事情もわかってくるようになります。永代供養墓を造っただけでは、お寺はなにも進まないことを肌で感じます。そうすると、パンフレット作成しようか?とか、外に向けての発信のお手伝いすることに繋がっていきました。川本商店の前は印刷会社にいたこともあり、紙媒体などの製作も得意でしたから、なにかとお寺からお呼びがかかるようになってました。

東京都墨田区 龍興院様

三重県津市 潮音寺様

―――さらにお寺に深く携わるようになっていくと。

 そうですね。時代の流れとして、永代供養墓も行政の許可が必要になってきます。許可も自分でとれるようになると、すべてお任せというスタイルになっていきます。気づいたら、400ヶ寺の永代供養墓に携わるようになりました。そのような状態が続くと、永代供養墓造る前の段階から、お寺への関わりが増えてきます。お寺経営に自信をなくしてしまったご住職方と出会うようになるんです。お檀家さん以外の広報について全くわからない、お寺からのアプローチを何をしていいのかわからないという方達が多かったですね。

 いろんなお寺さんとお付き合いする中で、人が集まるお寺、そうではないお寺が見えてくるようになるんですよね。人が集まらないお寺には一定の理由があり、その原因が私なりに見えてきます。その原因もほとんどが共通している。そういう部分を強化し、提案してゆきたいなと思うようになっていきました。

 

―――そして独立につながってゆくのですね。

 お寺の魅力を発信や強化してゆきたいけれど、資金面で厳しいお寺と出会うことも少なくありません。そうなると、これまでの仕事のスタイルでは合わなくなっていきます。会社として当然ですが、売上を上げていかねければなりません。このスタイルでは自分が思う、お寺の方々とのお付き合いはしにくくなってしまう。自分が思い描くスタイルが見えると会社の枠にはハマらないようになり、独立しようと思うようになりました。

静岡県沼津市 光長寺様

埼玉県松伏町 無量寿院様

―――独立されてどうでしたか? 

 独立して一歩外に出たら、待ってましたとばかりに、何人から連絡をいただきました。自分の予想と反して待ってくださったお寺さんがいたのは嬉しかったですね。ありがたかったです。
 ご要望は、永代供養墓はもちろん、お寺の内部的な整え方など。住職達は見えていない、お寺ごとの強みやいいところを見つけ、引き出す、伸ばしてゆくお手伝いです。ご本人達は弱みばかり反省していて、強みを活かしきれていないなと感じていました。

 突拍子もないことをしようとせず、いまある素晴らしい魅力、長所を引き出す、魅せ方をかえるお手伝いをしています。今やっていることを、もんの少し変えるだけでこんなに違うということを一緒に考え、やってきています。お寺の良さや強み、素晴らしい環境であったり、人の魅力、長所を探すのが得意なんですよ、私(笑)

 

仏教との出会い

―――人やお寺の魅力長所を見つける秘訣を教えてください

 私自身の失敗からです。かつての私は自分の失敗を他人のせいにし、他人に責任転化していました。自分以外の人のことはバカにしていたし、自分だけが仕事してる、そんな気持ちで仕事をしていました。なので、誰も声を掛けてくれません。会社の忘年会など、私が席につくと誰も寄ってきません。ヘルニアで入院した時には誰もお見舞いにきません。それが答えだったんですよね。その時に本当に自分が恥ずかしくなり、やっと気づきました。心底自分を変えたい。直したい、恥ずかしい、もう嫌だと思いました。

 でもどうしたらいいのだろう。わからないと思っていた時に、私の欠点をすべて言ってくれる住職に出会ってから変わっていきました。「ちっちゃなことにも感謝していこう」と言われ、少しずつ実践していきました。毎日食事を用意してくれる家族がいる、日々会社に行ける、仕事ができる、仕事頼める部下がいる、ということをちょっとずつ思ったら、今までのことを恥じ、涙が出てきました。これまでにまわりの人をどれだけ傷つけてきたのかと思って涙が出ましたね。

 そして、小さいことに感謝し、なにげないことに感謝し続けてくると、相手の気持ちがわかってくるようになります。お寺の方の苦しみとか、悩みとか、わかるようになってきました。自然と見えるようになってきたんです。大きく変わったのは、聞き上手になったことですかね。話しやすい雰囲気、話させることが上手と言われるようになりました。つい本音を言えるように、言いやすい雰囲気になってきたのかなと思います。
 これも仏教的な学びを実践してきたおかげです。お釈迦さまの教えを日々の暮らしの中で、繰り返してゆくと不思議と相手の長所がどんどん見えてくるし、お寺の良さや強みが光って見えてくるようになってきました。

 

埼玉県八潮市 立正寺様

――仏教を通してご自身の日常の変化はありましたか?

 悩む時も、回復が早くなったように思います。悩むのも、どの部分に原因があるというのがわかるので、ポッと変えられるようになりました。そうすると、反省して、後ろを振り返るのもちょっとにして、反省の中に次どうするかがわかってきます。『反省は、欠点は、失敗は、伸びしろだな』と思います。

 よく考えると、一見マイナスなところに、ヒントがいっぱいあるなと思います。怒られた時には、ここで怒られた、ここに原因がある、と思い、では逆やればいいんだと考えられるようになります。例えば、頑固な檀家さんとの間に入る時、その人のいいところが見えてくるんです。大変厳しい人でも、仲良くなるまでの時間が短いんですよ。その人がなぜ頑ななのか、原因や背景がなんとなくわかってきますし、その人を好きになれる。自分がかつてそうだったので、なおのこと見えてきますね。

 

――かつてのご自身と今とは180度違いますか?

 昔の仲間は今の私を見るとビックリしますね。あんだけトンガってヤツがそうなるか、って。まあ、ホントに、街歩いていると毎日ケンカしてましたから。ふざけたヤツを許せないみたいな、チャチャ入れて来るやつ、道徳的に間違っているヤツら見ると、ついついやっちゃうんですよね。当時の私に松村さん会わなくて本当に良かったですよ(笑)

 

――仏教に出会ったことで変われたのでしょうか?

 そうですね。でも、過去の自分に後悔はありません。後悔ではなくなりましたね。あの段階があって今がありますから。20代、30代の自分に会えたら、「大丈夫だよ。今はそうだけど、お前でも直るよ」って言ってあげたいですね。
 仏教を日常で実践してゆくと、焦らないというのも学びました。目の前の出来事に過敏に反応しないというか。焦らないから、ブレない。自分がブレないから、相手に集中できるようになりました。企業の中に仏教的な精神というか、心理的考えがあったら、経営者も楽でしょうし、社員とも関係もよくなると思います。社員研修はお寺でやったほうがいいと思いますよ。

東京都東大和市 佼成霊園様

つなぐこと

――屋号のTSUNAGUはどんな意味が込められていますか?

 自分のやるべきことが「つなぐこと」であるなと思っています。今までにない人と人を繋ぐとか、お寺と檀家さんを繋ぐとか。ひとつのプロジェクトをやるときにお寺のスタッフだけでなく、檀家さんを入れるとスピードアップする時があるんですよね。すべてがそうではないですが、同じゴールが見えてくると、住職と檀家さんと一緒に進めるプロジェクトというのは楽しそうだし、イキイキしているので、私の役割は「つなぐ」だなと思うんです。

 前職でフリーペーパーを作っていました。「みんてら」というフリーペーパーで「みんなが集まるお寺づくり」という意味です。その頃から、基本的にお寺はみんなでつくるもの、お寺は人が集まるところという想いがありました。そこから繋がってますし、これかももっと繋ぎたいですね。

 

――コロナの影響はどうでしょうか?

 コロナは、お寺の方と話す機会が増えました。こんな私でも励まさせていただいたり、ものごとのもう一方のお話をさせてもらったりしました。答えを出さずにまず聞く、という姿勢でお話を伺っていました。

 この2年間で、こういう物事を見せられると、やっぱり私が大切にしたいことはこういう関わり方だなと改めて思います。業者さんは他にもいますけど、はやりスピード、売上、結果という部分を求められると思います。もちろんそこも大事ですが、そのようなスタイルはお寺と腰を据えられない環境だと思います。私は、腰を据えながら、私なりに見えるお寺の良さを引き出すこと、お寺のみなさんと共に進めてゆくことを意識しています。

 

――これから考えていらっしゃることお聞かせください

 ここ数年思っているのは、発信ツールなど、発信の部分を私なりにお手伝いしたいなと思っています。これも常にお寺の方々の脇にいるポジションであるということと、私みたいな外側から見た人間も考えた方がいいなと思っています。お寺の魅力というか、お寺ってこんなこともできるところだよ、とかを絵本みたいのを作りたいなと思っています。
 それは、宗派の教えの解説とか、お釈迦様の教えを説明するということではなく、お寺で今どんなことをしているかという具低的な部分を、言語と絵にしてよりわかりやすくするもものです。目標としては、ひらがなで語っているくらいの感覚の内容にしてゆきたいなと。お寺ではヨガもできるし、相談もできるし、というものを具体的に冊子にして、たまたまご法事などに参列された方に渡せるようなものを考えてます。今さらながら紙で、紙ベースで、しかも絵本チックしにて準備しているところです。

 お寺の今の仕事は、適職じゃなくて、天職だなと実感してます。好きな絵を描かせてもらって、好きなデザインやらせてもらって、それを職業にできるというのは本当にありがたいなと思います。一ヶ寺、一ヶ寺のお付き合いも長くお付き合いさせていただけるというのもありがたいですね。すごく楽しいです。2年、3年なんて当たり前の世界ですからね。他の業界の人達からしたらそんな長いスパンは考えられないでしょうけど。
これらももっともっといろんなことに繋いでいきたいと思ってます。

広島県府中市 久蔵寺様

東京都台東区 成就院様

――ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします

トンガっていた時代?の森口さんのお話、初めて伺いました。穏やかな現在の森口さんからは想像もできません。
森口さんが手がけられた永代供養墓や納骨堂は、人のぬくもり、温かさを感じます。それは、ご自身がさまざま経験されてきたからこそ、にじみ出るものなんだなと改めて考えるインタビューでした。ごえんびとのインタビューは毎回そうですが、今回もこれまでの森口さんのご経験を伺い、またさらにご縁が深まりました。
壽徳寺でも永代供養墓建立を考えています。自然豊かなこの地ならでは、こころ安らぐ祈りの空間にできればと思っております。お知らせできるタイミングが来ましたらご報告させていただきます。

*インタビュー・文 松村妙仁
*2021年12月9日 オンラインにてインタビュー

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森口 純一 さん プロフィール

1966(昭和41)年、東京都板橋区生まれ。墓装用品メーカーを経て、2018年に礼拝空間デザイン室TSUNAGU代表就任。全国47都道府県の寺院で永代供養墓を設計、さらに永代供養墓をきっかけに参拝者目線の布教活動をデザインする。仏教伝道を基盤に、お寺の存在価値を広める活動を展開中。

 

礼拝空間TSUNAGU ホームページ
https://tsunagu.design/