ごえんびと 第10回 久保木 彩歌 さん

ごえんびと

第10回
久保木畳店
久保木 彩歌さん

 

連載コーナー「ごえんびと」
壽徳寺にご縁のあるひと(ごえんびと)にインタビューし、想いを伺いながらご縁を深めます。

第10回目は、久保木畳店の久保木 彩歌さんです。

久保木畳店さんは須賀川市にある老舗畳屋さん。工場の他に畳の縁(へり)を使った小物などをそろえた店舗も構えていらっしゃいます。テレビや新聞などで見たことも多いかもしれません。
12月19日には久保木さんにお越しいただき、「お正月飾りワークショップ」も壽徳寺にて開催いたします。
畳のお話、日本文化のお話、そしてご先祖さまのお話など、熱い想いが伝わるインタビューとなりました。ぜひご覧ください。

 

家業に携わること

―――久保木畳店さんは創業何年になられますか?

創業280年です。江戸元文年間、須賀川のこの地で創業し代々畳屋としてやってきました。社長である父で14代目です。
このお店(東町店)からはじまり、かつては職人さんが住み込み、家族のように賑やかに暮らしてきた時代もあります。平成5年には、先代である祖父が新たな場所に工場を建設し、現在は工場のある場所が本社です。

 

―――畳のヘリを使った小物はいつ頃からスタートされたでしょうか?

母が震災後に、半壊になった東町店を町屋風にリフォームし、何か活用できないかと考えていた時、岡山で畳の縁バックと出会い、私にも作れそうだなと思い作ったのがきっかけです。徐々に種類も増え、今では畳縁小物専門店として広がっていきました。

東町店には素敵な小物がたくさん並んでいます

 

―――昔から家業に携わることを考えていましたか?

いえいえ。高校生の時にフランスへ一年間留学したり、都内の大学へ進学してました。ですが実家を出て、海外まで行ったことで逆に日本文化を知りたくなりました。無知な自分が恥ずかしくなり、純粋に和っていいな、すごいなと感じたこと忘れられません。柔道といえば畳の単語が出てきて、畳と言えば実家畳屋だな、でも畳について何も知らないなと思ったり、知れば知るほど興味がわき、畳についてや日本文化について答えたい、知りたいという想いが強くなりました。
父は、自分が長男で外で働くことができなかったからこそ、子ども達には一度は外で仕事の経験を積んでほしいと思っていました。父自身が見ることができなかった世界をみてほしいという想いもあり海外に行かせてくれたと思います。一社員として経験したことを少しでも活かし、畳の良さを伝えられればと思い、現在に至っています。

 

―――学生を卒業してすぐ家業に携わったのでしょうか? 

 卒業後はホテルで働いていました。地元勤務の希望が叶い改めて須賀川について知ることから始まりました。そんな中、東町店のお客様が増え始め、客観的に見ていた家業に本格的に携わりたいと想いはじめ、会社に入りました。

学ぶことで磨かれる

―――入社してから畳のことを学びはじめたのでしょうか?

そうですね。入社してから他の若いスタッフと共にい草や畳表の本場である熊本と畳縁製造している岡山へ視察に行きました。専門用語もなにも知らない中、い草の効用や、畳縁の製造過程など、一から知りました。またい草農家さんと話せたことで、熱心な想いや須賀川とは違うい草の需要を肌で感じ、これらの思いも乗せてお客様へ伝えなくては、と思うきっかけになりました。学びを重ね、この頃からワークショップの依頼も増えてきました。
会社に入り、自分自身もこの環境に身を置いたことによって使命感とか、気持ちも磨かれていったのかなと思います。接客好きだったこともあり、母から任せてもいいかなと言ってくれるようになった時は嬉しかったですね。

店頭にならぶ畳のヘリ

ワークショップての様子

―――伝統や家業を継承してゆく使命に重荷とかは感じませんでしたか? 

幼い頃は、父がお店のトラックで学校に迎えにくることもあって(笑)、恥ずかしいなとか、父の存在や会社の看板で見られる事も多く、純粋に自分自身を見てほしいなと思っていましたね。なので、その看板を知らない遠くの場所に進学し、この自分をとりまく環境も自分なりに解決しないとなと思っていました。

今でも、新しいことをすると目立ってしまうこともあります。でも私たちは、純粋に畳や日本文化を伝えるために懸命にやっているだけなんですよね。自分の口で伝える場、機会を与えてもらっているのは本当に感謝したいです。
最近は、久保木さん頑張っているよね、と声をかけてくださったり、応援してくださる方々がいることを実感しています。ありがたくその環境も受け入れられるようになってきました。
自分の環境も受け入れられるようになったのも、海外に行ったり、経験を重ねたり、この世界に入ったからこそ見えたものも影響しているなと思います。周りの方からいろんなことを教えてもらうばかりですね。

 

―――いろんな新しいことをされている印象がありますが、いかかでしょうか?

 実際、周りから驚かれることが多いですが、本社工場での畳製造の基礎がしっかりしているので、女性陣の私たちが小物作りやワークショップに専念できています。試行錯誤しながら畳の可能性の広がりを楽しんで行ってますね。時代が変わっても美しいなとか、すごいな、いいなと思う感覚は変わらないと思うんです。それにどう色づけて表現していくか。特に私は感じたままの五感を大切にしてゆきたいですね。

ニューヨークでの出店の様子

 

――仕事する上で迷うことはありますか?

すごく迷います。でも「やってみないと分からないでしょ」ともう一人の自分が問いかけます。すごく迷ってその場で長い時間足踏みもします。ですが、皆一生懸命にやっていて、それぞれ経験してきたことがあるから、尊重し意見を重ねながらパワーアップしていいものができていると感じます。その環境の中でお仕事が出来てること感謝したいです。

――小物製作はどなたがされているのでしょうか?

バック類は母で、コースターは姉、小さな小物は私というような役割分担ですね。発送の際、最後の梱包や挨拶状は私が書いてお送りしています。注文受けて、流れ作業でただ発送するだけでなく、相手が箱を開けた時にどんなことを感じるか、どんな想いを感じてもらえるかなと、想像し考えることが好きです。便箋を四季に応じたものだったり、男性か女性かなどでわけたり、そこまでこだわらなくてもいいことだとしても、私にとっては大事な作業の一つなんです。この最後の発送までが久保木畳店商品として大事にしたいところですね。
字を書くことは落ち着いて向き合える時間なので、気持ちもスッとします。その一瞬にちょっとでも印象に残るような、色付けができればいいなと思っています。こういうことはホテルで働いた時に学んだことかなと思っています。スタッフそれぞれの経験が今活かされいますね。

須賀川ならではウルトラマンのヘリ

これからのこと

――これからについてお聞かせください

 来年秋に、体験型複合施設をオープンする予定です。本社工場を改装し、畳製造の様子を見学できたり、ワークショップや和室のコワーキングスペースなども設ける予定でおります。和室を持たない方も非日常的な空間を感じ、日本人が持っている感性をもっと大切にしてもらえたら嬉しいです。

「使命は畳を後世に残すこと、夢は畳を世界へ広めること」
スタッフ皆、この信念のもとに真剣に向き合い取り組んでいます。

この東町店のフロアの奥には、仏壇があり、毎日亡き祖父に手を合わせ、ご先祖さまに見守られながら仕事しています。お客様の声を聞きながら祖父やご先祖さまも喜んでくれているかな?と思っています。ご先祖さまがいるから今があります。代々繋いできた素晴らしい技術があります。そのご縁に感謝し、少しでもご先祖さまに恩返ししたいですね。
大好きな須賀川で、須賀川を知っていただくきっかけにもなれればよいなと思います。
畳屋の娘に生まれて、これからも自分の言葉で伝えてゆければと思います。

――ありがとうございました。ワークショップ楽しみにしております。

 

久保木畳店さんをお呼びしてワークショップすることも念願が叶っての開催です。
ご縁(えん)を大切にするお寺をテーマにして活動する中で、畳の縁(ヘリ)を使った小物で畳文化を伝えていらっしゃる久保木さんをお呼びしたいとコロナ前より思っておりました。
 久保木さんの活動は一見新しい斬新に見えますが、畳文化をこれからも伝えたいという、創業から代々繋がってきた変わらない想いと技術であることを強く感じるインタビューでした。そしてその想いに大変感銘を受けた時間でした。
12月のワークショップでは、畳について、ヘリについて、伝統和柄などお話も伺いながら、楽しく参加できるワークショップです。どうぞみなさまお早めにお申し込みください。ご参加お待ちしております。

 

*インタビュー・文 松村妙仁
*2021年11月18日 久保木畳店東町店にてインタビュー

インタビュー記事 PDF版のダウンロードはこちらから


【お正月飾りワークショップ】

■日時:2021年12月19日(日)14:00~15:30
■場所:壽徳寺本堂にて
■参加費:2,500円
■詳細・お申込はこちらから


久保木 彩歌 さん プロフィール

1991年、4人兄弟の3番目として須賀川市で生まれる。
好奇心旺盛な性格から16歳の時フランスへ一年間交換留学。
その後、学習院大学文学部フランス語圏文化学科へ入学。卒業。
ホテル勤務を経て、家業である久保木畳店に就職し、主に畳縁小物専門店(東町店)での販売と畳の話や畳の素材を使ったワークショップを担当している。オンラインや留学生向けにも対応。現在、ブランド〝KUBOKI〟の畳コースターは国内外の一流飲食店や全世界からのお客様から注文をいただき、幅広く展開。
2022年秋頃、体験型複合型施設“TATAMI
VILLAGE (タタミビレッジ)〟を開所に向け、日々一歩一歩頑張っています!

久保木畳店ホームページ
https://tatami-jp.com/
久保木畳店オンラインショップ
https://tatami-japan.stores.jp/
久保木畳店インスタグラム
https://www.instagram.com/kuboki_tatami_official/
久保木畳店フェイスブック
https://www.facebook.com/kubokitatamiten/