「民報サロン」2022年1月28日掲載

吹雪の中の道しるべ

 東京から地元猪苗代に戻り、一番気がかりだったことは雪道の車の運転です。学生時代に免許を取得し、その後ほとんど運転せず二十年のブランク。Uターン直後にはペーパードライバー講習も数回通いました。乗って慣れるしかない、という教官の言葉を励みに経験を重ね、冬の運転も六年目です。

 猪苗代は『磐梯おろし』と言われる強い風が吹きおろし、冬は吹雪が名物。特に今年は気温が低いことから雪が細かく軽いため、ホワイトアウトが度々発生しています。吹雪になったら外出しないのがベストですが、どうしても運転しなければならない時もあります。運転し始めた頃は吹雪を甘くみて、路肩の吹き溜まりにはまった経験もあり、それ以来冬の運転は特に気をつけています。
 吹雪の運転で大切なことは、ランプ点灯と徐行運転。ヘッドライトもハイビームでは雪に乱反射し逆効果です。下向きに照らしながら走ることが大切です。そして頼りになるのは路肩のスノーポールと前に走る車の灯り。赤く灯ったテールランプが安心できる存在、命綱のような存在として、吹雪の中の道しるべとなります。

 これは今の日常生活でも大切なコトとして置き換えられると思っています。私たちは現在、未知の感染症拡大の状況下において、猛吹雪のように周りが見えない毎日を過ごしています。この状況がいつまで続くのか、遠い未来までハイビームで照らし見通したいものです。けれど、ハイビームで照らしても逆効果。全く見えません。また、猛吹雪の中では、後ろに戻ることも難しくなります。生きてゆく中でも、先のことを考えても不安があり、これまでの経験を振り返っても後悔などで憂鬱にもなることもあると思います。何も見えない世界にいるように、前に進むにも後戻りもできない時どうすればよいのでしょうか。
 そんな時、吹雪の中ヘッドライトを下向きにしてゆっくり走ることと同じであると思います。未来でも過去でもない、今の自分の足元を照らし、見つめ、信じてゆっくり進むことが大事です。少し前を走るテールランプの灯りを道しるべとして共に進むこと。見えない世界でも小さな光となる道しるべを助けに、ゆっくりと徐行運転してゆくことが大切であると思うのです。時にはハザードランプをつけて安全な場所に留まる決断も大切なのではないでしょうか。

 吹雪やコロナのように先が見えない世界では、いつもと違う緊張感と慎重さ、丁寧な行動が大切です。先が見えない状況だからこそ、生きるための道しるべとなるものを懸命に見つめると思います。探そうと思うはずです。生きてゆくための道しるべは人それぞれ違うもの。みなさんにとっての道しるべはどんなものが浮かびますか?
 猛吹雪の後、快晴の空に映える磐梯山はいつもに増して美しく堂々と見えます。先の見えない不安な世界を体験しているからこそ、広く明るく澄み切った青空の世界の偉大さ、豊かさ、有難さも心から実感できます。厳しい冬の先にはよろこび溢れる春。桜咲く美しい春はそこまで来ているはずです。

 

福島民報「民報サロン」2022年1月28日寄稿

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