ごえんびと 第5回 貝沼 航 さん

ごえんびと

第5
漆とロック株式会社 貝沼 航さん

 

連載コーナー「ごえんびと」
壽徳寺にご縁のあるひと(ごえんびと)にインタビューし、想いを伺いながらご縁を深めます。

 

第5回目は、漆とロック株式会社 貝沼航さん。

漆とロックさんとは、2019年に壽徳寺にて「五感で感じる精進料理」を開催して以来のご縁です。
この会は、漆とロックさんのオリジナルブランドである会津漆器「めぐる」で、福島県産の食材を使った精進料理を味わう会として開催いたしました。
「めぐる」についてのお話と、会津や自然、生と死についてのお話まで、住職にとっても、とても深い時間となりました。
どうぞご覧ください


「めぐる」うつわ

―――お寺からの依頼をどう思われましたか?

 「めぐる」は禅僧が使用する、応量器(おうりょうき)をモチーフにしていますので、里帰りという感じがありました。
 
これまで多くの方に普段の暮らしの中で「めぐる」を使っていただいてきましたが、精進料理の中で楽しんでいただくという機会をいただき、嬉しかったです。そして、精進料理の中ですと、器の意味も自然と感じていただけたと思うので、とてもいい機会でした。

2019年壽徳寺にて 精進料理の会

2019年壽徳寺にて 精進料理の会

―――「めぐる」はどのようして生まれたのでしょうか

 「めぐる」に関しては、時代の中で自然に生まれてきたように感じています。もちろん、自分がきっかけのひとつであり、制作に関わってはいますが、それより、めぐるという存在が自然に生まれてきたという感覚がすごくあります。誰かから授かったというより、自然からの授かりものという意味合いが強いです。もちろん自分の中でその種はあるのですが、逆に自分自身がこの器に育てられている感覚もあり、めぐるの面倒を見ていますが、どっちが育てられているんだろうと思う事もあります。

 

漆との出会い、会津での暮らし

―――漆器との出会いのきっかけをお聞かせください

 大学卒業後、会津の企業に就職しました。そこではベンチャー企業を支援する仕事をしていたのですが、ものづくりの現場で様々な職人さんとも出会いました。そんな中で漆器の職人さんとも多く繋がり、漆器とじっくり付き合うようになっていきました。
 
福島市出身ですが、祖父が会津出身。おじいちゃん子で、祖父からよく会津の話は聞いていましたので、昔から身近には感じていましたね。会津に住んでもう17、8年になりますね。

 

 

―――初めから会津に定住を決めていたのでしょうか 

 最初は会津で数年働いたら東京に戻って、なんかやると思っていたんですけどね。会津にいればいるほど、おもしろさが出てきました。
 この変化というのも、震災後、自分も三十代に入ったくらいからですかね。社会的な流れからの気づきもあるし、世の中の流れでもありますが、自分の価値観が変わってきました。都会の豊さより、自然のある豊さの方が面白いなと思えてきたんです。

 

―――どんな変化があったのでしょうか

 大量生産、大量消費でないところで、どう次の答えを見つけてゆくか、というのは自分の人生のテーマでもあります。そのテーマと「めぐる」は重なるという部分はありますね。自分が震災後に特に思っているのは、これからの時代に、モノを生み出してゆく、作って売ってゆくということに意味があるのか、という問いは常に自分の中にあります。
 
これからは人口も減ってゆきますよね。地球や自然との向き合い方も問い直されている中で、本当にモノを作っていく意味があるのか、新しいものをつくらなくても生きてゆけるくらいにモノが地球にある状態の今、どうしてゆくべきか。その問いは常にあります。
 
自然と人がいかされる。いかしあいながら、バランスを保って循環してゆくことが大事であり、それなら意味があると思うんです。自然素材の循環と季節サイクルに則したものづくり、適量生産という形にした「めぐる」にも、そんな想いが込められています。

 

この一年の先に

―――コロナの状況の一年、どんな時間でしたでしょうか?

  自分にとっては、すごいきっかけの一年でした。コロナ前は全国各地へ飛び回っていましたが、移動する必要がなくなり、そんなに移動しなくても大丈夫なんだと。
 
移動できない分、会津にいることが長くなり、会津の山の仕事を知る事ができた一年です。春の山菜からはじまり、山の恵みを感じ、保存食をつくりながら、暮らしを楽しんでいました。仕事の時間が減り、その分、山仕事が忙しくなりましたが、それが楽しいですね。食べることなど暮らしに直結する仕事はいいですよね。正解なんだろうなと。

 ちょうどこのタイミングで、めぐるの受注期間を年に一度、三か月間のみにして、受注からお届けまで、十月十日(とつきとおか)をかけるサイクルにしたことも大きなきっかけになりました。
 
春は漆かきなど漆の山仕事もじっくりできるようになりましたし、季節と自分の仕事がリンクし、季節ごとに自分の役割が変わってゆくことが、とても心地よいです。
 
年中毎日同じ事をやっていたら、どんなに好きな仕事でも飽きるし、人間関係が硬直し、循環できないと思うのですよね。季節性労働だと、飽きてきた頃に次の仕事が待っている、毎回新鮮な気持ちで挑めますよね。昔は誰もが自然に則した生活をしていたので、みんなそうだったと思うのですよね。そういう中で、雪国の手仕事も出てきた。

 コロナをきっかけに、逆に本来の姿にかえれた。という感覚があります。都市は便利で、経済的な豊さはある。ですが、今回のような状況が起きると自然と断絶されますよね。
 
田舎はこんな時だからこそ、根本に立ち返る力がるんですよね。雪国は冬は雪に閉ざされるから、必然的にステイホームになります。ある意味、ステイホームの達人だよなぁと。そういう中でどう楽しむか、どう価値を出すかなど智慧が生まれてきたわけです。その智慧がある地域とそうでない地域の差、根本にその力があるかないかは大きなと実感しています。そこに立ち戻りつつどう進化できるかが大事ですよね。

漆かきの道具

漆の植栽地

 

―――最近考えていることをお聞かせください

 コロナ以降、死をちゃんと考えたいと思っています。死って自然なことなんですよね。死=不自然、悲しいだけでない。人の死だけでなく、社会でもなんにでも死はあります。生物も地域も社会も人類にも。縮小や衰退してゆくことも自然の一部で、だからこそ、どう循環してゆくのかが大事だと思います。

 自然の節理を考えると、個体の死は生物の中ではそんなに大きなことではないですよね。自然全体の中で生があり、死もある。自分自身の死も自然全体の循環のひとつに過ぎません。ですが今は、種が生き延びるかより、個がどう生き延びるかが重視されていますよね。社会が発展して個人が肥大化し、個人の主張、権利などがあまりにも尊重されすぎて、結果息苦しい社会になっているように思います。

 なんでも物事本来の役割というのはすごく大切だと思います。時代の流れにより変化はありますが、原点に立ち戻ることと進化は同時に起こっているものです。漆器も同じで、「めぐる」で言えば漆器の伝統工芸の概念は壊しているんです。伝統という言葉も明治以降の新しい概念なので、明治よりもっと遡って縄文の文化に戻り、本来持っている役割に立ち戻ることを大切にしています。

 こういったことは、これからもっと大事になるのではないですかね。これからは拡大発展ではなく「縮小進化」の世の中。その中で生もあり、死もある。それをどう捉え直すか。拡大発展の社会の中では、死はネガティブなものとしてあってはならないものとして遠ざけてきたと思いますが「縮小進化」のこれからは、それをどうポジティブに捉えるかが大事になるのではないかなと。お寺の役割もより大切になるのではないでしょうか?

 

―――今すすめていること、これから予定していることなどお聞かせください

 会津で漆の木を育てて今年で十五年になり、会津産の漆が採れるようになります。その漆を使って、職人さんたちと一緒に様々なプロジェクトを考えているところです。会津の漆は、江戸時代は百万本あったとも言われます。それが平成に入ってほぼゼロに。それを復活させたいですし、原料としての会津の漆の復活を目指しています。

 漆の本質に立ち返り、人と自然の循環がある場所に会津をしていきたいですね。

――ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。


 会津のお話から生と死のお話まで。統一がなさそうに見えますが、すべては繋がっているお話で、大変深い時間となりました。会津や福島の良さ、仏教やお寺を知っていただくきっかけとして、精進料理の会を二年前に開催。コロナが落ち着いた時にはまた開催できればと思っております。

 「めぐる」は現在、猪苗代町内のはじまりの美術館にて展示されています。製作工程から想いまで体感できる展示です。ぜひお運びくださいませ。


◆はじまりの美術館◆ 展覧会 (た)よりあい、(た)よりあう。

会期:2021年4月17日 – 2021年7月11日 

出展作家:漆器「めぐる」、笑達、しらとり けんじ、平野 智之、みずのき絵画教室、やわらかな土から

詳しくは、はじまりの美術館 ホームページにて

はじまりの美術館 展示の様子

はじまりの美術館 展示の様子

*インタビュー・文 松村妙仁
*2021年7月4日 壽徳寺にてにてインタビュー

インタビュー記事 PDF版のダウンロードはこちらから


【めぐる とは】

飯椀、汁椀、菜椀の三つ組のお椀。

器が持つ心地よさ、肌触りや口当たりは、暗闇の中で行われる体験プログラム「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」のアテンドである、全盲の女性たちの感性から生まれています。収納時に綺麗に重なるかたちは、禅の修行に用いられる応量器(おうりょうき)をヒントにされています。国産の広葉樹と漆を用いて製作され、お直しにも対応。一生共にできるお椀です。

2015年、2020年グッドデザイン賞受賞

めぐる ホームページ  https://meguru-urushi.com/


貝沼 航さん プロフィール

漆とロック株式会社 代表

“繋ぐ・伝える・生み出す”を自身の役割として、会津で漆器のコーディネーター/プロデューサーとして活動。

学生時代はバンド活動とインド旅行に明け暮れる。大学卒業後に祖父の出身地である会津に移住。

ダイアログ・イン・ザ・ダークとコラボレーションした漆器「めぐる」は、目を使わずに生きる方たちの感性を活かし触覚に着目したデザインにより、2015年と2020年にグッドデザイン賞を受賞。作り手と使い手を繋ぐ産地ツアー「テマヒマうつわ旅」や国産漆の植栽活動にも取り組む。漆器の魅力を伝える講演やイベントも常時行っている。